北朝鮮のBW環境

国防科学研究所「国防技術情報」1998年10月号

 北朝鮮は、30年以上、生物学兵器(BW:Biological Warfare)を研究開発していると知られているが、具体的な内容は知られていない。北朝鮮は、様々な種類のBW作用剤を相当量自主生産できる能力を有する。それのみならず、非在来型運搬手段により、朝鮮半島と周辺諸国を攻撃できる能力も保有している。

 全般的に北朝鮮では、化学兵器(CW:Chemical Warfare)に比べ、注目されてこなかった。これは、恐らく、北朝鮮の生物工学能力の限界と、BWは、一度使われれば、ほとんど統制できないと悟ったためであろう。その上、北朝鮮の人民軍は、韓国軍や米軍より医療能力が遙かに劣っているため、BWが自国に不利になり得ると計算しなければならないであろう。

 しかし、全く同じ理由でBW防護能力は、相当な関心を受けてきた。このような面は、米国が朝鮮戦争時BWを使い、将来も戦争が起これば、米国がBWを使うことに躊躇しないと北朝鮮が信じているためにより一層強化される。

 反面、旧ソ連と中国は、北朝鮮に化学作用剤を提供したが、BWの開発には、いかなる直接的な援助を与えておらず、自国で開発能力を備えたと信じられている。

 北朝鮮のBW研究は、1960年代初めに始まり、10〜13種の細菌に対して能力を集中させたものと信じられている。過去10余年間、制限的な遺伝工学技術と発展した生医学技術が北朝鮮において現れ始めた。現在は、このような能力がBW計画により統合されなかったが、間違いなくこの段階に入ったものと信じられている。

 たとえ、北朝鮮がBW技術と装備の拡散に連結する公開資料による証拠はないにしても、北朝鮮がキューバ、イラン、リビア、パキスタン及びシリア等の国とBW研究と関連した協力に関する協定を結んだ可能性に対して深刻な憂慮が提起される。人民軍総司令官崔光がキューバを旅行し、遺伝及び生物工学研究所を訪問した1991年3月にキューバとそのような協力があった可能性がある。

指揮及び統制

 北朝鮮でのBW作用剤と兵器の生産は、政府組織では分離されているが、内部的には連結した3機構である朝鮮労働党(KWP:Korean Workers' Party)、中央人民委員会及び国防委員会の相互協力下に行われている。国防委員会傘下の第2経済委員会 は、第5一般機械産業局と国防科学院を通して事業を統轄する。中央人民委員会の国家行政協議会傘下の科学院は、国防研究と開発の全ての部門において国防科学院と密接に業務を遂行する。人民武力部と傘下機関のBWに対する任務は具体的には知られていないが、CW開発及び生産での任務と類似したものと思われる。最近の帰順者によれば、この任務が与えられていると予想される核・化学防護局には、任務がないという。BW任務は、恐らく、総参謀部内のある部署が負っているのであろう。KWPの弾薬工業政策及び検査部は、行政的補助と第2経済委員会の監督を受け持つ。
 

北朝鮮のBW計画関連組織
図.北朝鮮のBW計画関連組織

生物学作用剤

 情報の信頼度は疑わしいが、炭素菌(Bacillus anthracis)、ボツリヌス(Clostridium botulinum)、コレラ(Vibrio cholera 01)、出血熱(恐らく、韓国系統)、ペスト(Yersinia pestis)、天然痘(Variola)、腸チフス(Salmonella typhi)及び黄熱病等の生物学作用剤が人民軍の在庫目録に上がっているという報告がある。

 天然痘が含まれているのは興味深いが、これは、今日、この病原菌が米国とロシアにのみ貯蔵されていることが知られているからである。北朝鮮が天然痘菌をBW作用剤として開発しているとすれば、第1に、旧ソ連か中国が天然痘菌を提供、第2に、北朝鮮が朝鮮戦争時から培養菌を保管、第3に、1960年代から1970年代に第3世界から標本を収集したという3つの可能性が推測される。

 最後の可能性が正しければ、北朝鮮が異なる天然病菌標本を収集して、異なるBW作用剤も開発した可能性がある。

 北朝鮮のBW研究は、最近日本で問題となっているE coli O-157の使用に対する研究も行っていることがあり得、インフルエンザ菌が伝播しやすく(つまり、空気伝染)、短い培養期間(1日から3日)、伝染水準(例、3日から7日)及び脆弱性(新しいインフルエンザ菌が出現すれば、子供・大人を問わずに全員全く同じように感染しやすい)ため、作用剤として使用するため、インフルエンザ菌の逆設計を指導する可能性がある。

研究及び試験施設

 BW研究と試験に関連した機構と施設に対する情報は、混乱している。最も考えられる現在の実体は、表の通りである。

 BW試験に関しては、知られていることがさらに少ない。恐らく、大部分の試験は、研究組織自体内で遂行されていると判断され、これは、北朝鮮がロシアや西側と類似した野外試験場を持っており、適切な判断のようである。相当論理的に解析することより、ある報告書では、BW試験が島で行われているとし、万一、正しければ、西海岸にある島のようである。ある帰順者は、BW試験が「軍医大学と金日成大学校医大で政治犯を相手にして実施される」と語った。

生産及び貯蔵水準

 生産能力は疑問で、備蓄量も知るのが難しいものの1つである。最近、ある帰順者は、「生物兵器は、今研究中であり、まだ生産されていない」と語った。しかし、北朝鮮のBW計画は、1960年代に遡り、少なくとも1970年代中盤か、もしかするとそれ以前に生物学作用剤を生産する能力を持っていた。生物学作用剤の制限的な生産は、恐らく、研究施設内で行われており、隔離された生産施設か充填施設が存在するようである。上述した「2月25日工場」がそのような施設であり、不確実ではあるが、さらに1、2ヶ所そのような施設が存在するであろう。しかし、米国の前中央情報局長官William H. Websterが示唆したように、北朝鮮のような国では、このような施設の拡張に顕著な障害が現れないであろう。
 

表.北朝鮮のBW研究、試験施設
機構位置上級機関
第5一般機械産業局平壌(本部)第2経済委員会
人民軍医学大学平壌人民武力部
細菌学研究所西海第2経済委員会
中央病原菌研究所平壌(?)科学院(?)
2月25日工場未詳第2経済委員会
微生物疾病研究所平壌(?)科学院
金日成大学校医学大学平壌科学院
軍医官学校平壌人民武力部
医学研究所未詳第2経済委員会
平壌医学大学平壌科学院

 BW作用剤を生産するには、製薬及び医学産業における正当な用途を持っている装備、材料及び専門的技術が必要である。現在利用できる技術でBW作用剤を生産すれば、備蓄はこれ以上必要ではない。実際、製薬産業がある程度発展した国は、いかなる国でも、BW作用剤を生産できる。

 生物学兵器生産施設は、弾薬を充填するのに使われる最も利用しやすい施設である。その通りならば、第3一般機械産業局の傘下工場で充填されない弾体、ロケット弾、爆弾等を受けて処理すれば可能である。

 現在、北朝鮮の生物学兵器備蓄に対する公開された信じるに足る資料はない。しかし、BW生産が比較的容易な点と北朝鮮の制限的な医学能力を勘案すれば、北朝鮮は、少量の生物学兵器を備蓄しているものと判断される。

戦略的備蓄

 BW備蓄は、北朝鮮にとって悪い存在ではない。そして、備蓄場所は、知られていないであろう。北朝鮮におけるCW備蓄を1次的に担当している機関は、マラム材料会社とチハリ化学会社の2ヶ所である。BW備蓄は、この2つの機関の特別に設計された組織で担当するものと判断される。

(Jane's Intelligence Review, 1998. 8, pp.28〜29)

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最終更新日:2003/09/01

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